俎上に載せられるのはラカンの精神分析学だが、構造言語学や否定神学などの要素も入ってます。ミステリとしては「血が抜き取られた死体」を巡って、現象学 的本質直観による推理が交わされるのですが……。長い。雑誌連載だったという性格上仕方ないんだろうけど、同じ事実を何度も検討することが精緻な本格ミス テリだって勘違いしてんじゃないのかしらん。『青銅の悲劇』よりはまだマシだったけど、それでもキツイわー。ラストは本格をやや逸脱した部分があるが、こ れは先行する某大家の名作へのオマージュでしょうか。成功してるとは思いませんが。
とりあえず本格ミステリとしても思弁小説としても、私はもうこのシリーズは楽しめなくなりつつある。というか笠井潔という作家が。それでも、カケルとイリイチ、そしてカケルとナディアの決着は気になる(というかもうそれ以外に興味はない)ので、新刊が出たら読むと思いますけども。とりあえず次作・次々作はもう完成してるらしいから、早く出してほしいです。